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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)29号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本願発明(出願公告昭和三九年五月一三日特公昭三九―七二四五号)の特許請求の範囲の記載に本願発明の特許公報を総合すると、本願発明の要旨は、前記特許請求の範囲に記載されているとおり、「仕切と、前記仕切の両側にあつて前記仕切に面する環状リム部分と圧力口とを有し前記仕切と共に圧力室を形成する枠体と、前記各圧力室内において該圧力室を圧力流体を容れる外側の空間と液体を容れる内側の空間とに分割する鞴と、前記外側の空間と前記内側の空間とをそれぞれ密閉するための2種のシールとを有し、前記各鞴の内側の空間は前記仕切を貫通する通路によつて連通している差圧計量装置において、前記各鞴(14、16)は前記仕切に面する側に前記仕切と前記各枠体(11、12)の前記環状リム部分との間において前記環状リム部分の外縁に至るように外方に延びる鍔を有し、前記仕切と前記鍔の一方の面の間には前記内側の空間内にある液体を大気から密閉するための第一のシール(23、43)が設けられ、前記鍔体の他方の面と前記枠体の前記環状リム部分の間には前記外側の空間を大気から密閉するための第二のシール(54、54)が設けられ、前記鍔の両側において前記各シールを封緘状態に締め付けるよう前記枠体を前記仕切へ接続する第一の締着装置(51、55)と、前記各鍔と前記仕切との間にあつて前記第二のシール(54、54)とは無関係に前記第一のシール(23、43)を固定する第二の締着装置(26、27、41、42)とが設けられていることを特徴とする差圧計量装置。」(別紙、省略)にあるものと認められる。そして、……「発明の詳細な説明」の項によると、従来のこの種の差圧計測装置の技術的欠陥について、「従来慣用されているある種の差圧計測装置においては計量されるべき圧力状態に在るガスから非圧縮性液体を密封すべき場所に非常に緻密な然も特に用意したシールを使用した場合でさえ、若干の微量のガスがその液体中に侵入する傾向を示し然も充分な量が蓄積される迄徐々に液体中にそのガスが滲透し、その結果計量装置に可成の誤差を生ぜしめることが明らかにされている。この誤差は非常に僅か宛累積される為その大きさが充分大きくなつて認知できるようになる迄の間には検出されないままでいるのと云う事実にこの問題の主要なむずかしさの一面が存在する。実験上この滲透作用は高圧力下でかつその圧力が減圧された場合、密封用物質に吸着したガスの在る側だけでなしに液体の在る側においてそのシールの両面に残留するような条件の下で密封用物質によつてガスが吸着されることに起因するものと考えられている。」と記載され、続いて、「従つて本発明の目的は非圧縮性液体用シールが高圧の下でガス用シールとは別個にかつ独立に形成されるような構造を有する差圧計式の計量器具に適する新規かつ改良型のシールを提供することにある。本発明の他の目的は高圧の下で非圧縮性液体およびガス体の両者が相互に密封されることよりも寧ろ大気に対してそれぞれ別個に密閉しうるような新規にしてかつ改良型の外覆型複シールを提供することにある。更に本発明の他の目的は非圧縮性液体の密封状態がガス物質に対するシールが破損した場合でも決して損うことがないように、ガス中に露出される鞴の外部を予め検査しかつ清浄に保つようなシールを具備した新規かつ改良型の差圧計式計量器具を提供することにある。」と本願発明の目的について記載されていることが認められるところ、これらの記載に徴すると、本願発明は、特許請求の範囲に記載した構造の差圧計量装置において、特許請求の範囲に記載してあるとおり、二種類のシール、すなわち、圧力室内部にある鞴(14、16)内の液体を圧力室を介してでなく、直接大気から密封する構造により、圧力室内の圧力流体の鞴内部への滲透を回避した第一シール(この第一シールは、鞴に取り付けられ、かつ、枠体(11、12)の環状リム部分の外縁に至るよう外方にまで延びた鍔と仕切(10)との間に設けられ、したがつて、鞴の液体を圧力室内の圧力流体とは何らの関係なく、直接大気から遮断している。)と圧力室内の空間を大気から密閉する構造の第二シール(この第二シールは、前記鞴に取り付けられた鍔体の第一シールが設けられている面の反対面と枠体の環状リム部との間に設けられ、大気から圧力室を密閉している)。とを設け、この二種類のシールの締着装置をそれぞれ別個独立に構成することにより前記の各目的を達成し、所期の効果を招来し、従前のこの種差圧計測装置の技術的欠陥を克服したものであるということができ、したがつて、本願発明はシールの構造とその締着構造に主眼点があるものと解せられる。なお、被告は、本願発明の第二締着装置は不完全で、枠体を取り除いた場合には、鞴内部の液体の圧力により鍔を固定している螺子間のリングが押し上げられ、鞴内部の密閉状態を維持できない旨主張(被告の答弁二項2の(二)の点)するが、前記……「発明の詳細な説明」の項には、鞴室25の「密封状態を完全にするため枠体11の外縁部には鍔22に重ねられた環状リングが装着され、そのリング上適宜間隔を置いて配設された螺子27により鍔はリングの補助で仕切10の端面21に固く締着される。」、また、「若し何等かの理由で鞴の内部を掃除するため枠体を取外す必要が生じた場合には、これらの枠体は非圧縮性液体用のシールを含む装置の保持部を何等損ねることなしに取外すことができる。」とそれぞれ記載されていることが認められ、これらの記載事実に照らすと、本願発明の第二締着装置については、前記の構成の範囲内でその目的を達するに必要な設計手段が技術常識上当然採られうるものと解されるのであつて、被告主張のように本願発明の第二締着装置が不完全であると認めることはできず、したがつて、被告のこの点の主張は、採用できない。

三、一方、……引用例の米国特許二八二七、七一六号は、一九五八年三月二五日特許にかかるもので、右特許発明は、圧力室と圧力室内にベローズ(適当な液で満たされている。)を備えた差圧計測装置であるが、ペローズ内部はシールリング23をナット19により締着することにより圧力室と遮断され、圧力室はヘッド11をボデイ6に設けられたフランジ16をボルトで中央板10に締着することにより大気から遮断される構造(別紙、省略)であることを認めることができる。

四、そこで、本願発明と引用例の前記各構造を対比するに、本願発明においては、第一シールが鞴内の液体を、圧力室を介してでなく直接に大気から密封しているのに対し、引用例においては、本願発明の第一シールに相当するシールリング23が鞴内の液体を高圧室に対して密封している点(したがつて、またシールの締着構造)で両者に差異があることは明らかである。

被告は、この点の相違は、引用例において、第一シールに相当するシールリング23が圧力室に対し鞴内の液体を完全に密閉しているならば、たとえ、圧力室を介してであつても右シールにより鞴内の液体は結局大気から密閉されていることに帰するのであるから、本願発明と引用例との間に相違はなく、実質的に同一である趣旨の主張をするが、本願発明の第一シールと引用例のシールリング23との構成およびその締着構造が異なることは前記のとおり明白であり、引用例のようにシールリングが圧力室の圧力流体が鞴内の液体室に滲透するおそれがないとはいいえず、まさにこれを回避するために本願発明の第一シールの構成およびそのシールの締着構造が採られたものであることに徴すれば、両者が作用効果において実質的に同一であるとは到底認めることができない。したがつて、被告の右主張は採用の限りでない。

さらに、被告は、両者に作用効果の差異があるとしてもそれは前記構成上の差異によるものであるところ、本願発明の第一シールのような構成およびそのシールの締着構造は、慣用技術から容易になしうるものである旨主張するから判断するに、被告がこの点の証拠として挙示する乙第一号証および第二号証に示された差圧測定装置は、いずれも本願発明が技術的解決の対象とした差圧計とその種類を異にし、本願発明が克服の対象とした技術的欠陥(すなわち、圧力室内のガスがシールを介して鞴内に滲透するおそれ)を生ずる余地のないものであるから、課題解決のための技術思想を全く異にするものというべく、この点にさきに認定した本願発明の作用効果を合わせ考えると、右例示の差圧測定装置において単に圧力室の二室がシールを介しそれぞれ別個に大気に対して直接に遮断されているからといつて、このシールの構造およびその締着構造を引用例のシールおよび締着構造に置き換えることにより、本願発明が創作力を要せず容易になしうるものとは、到底断定しえないところといわなければならないし、また、本願発明と引用例のシールの締着構造の差異を設計上の微差をもつて論ずることもできない。したがつて、被告のこの点の主張も採用するに由ない。

五、上記のとおりである以上、本願発明が引用例と同一の封緘状態を示しているにすぎず、そしてシール締着構造上の差異をもつて設計上の微差にすぎず、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないとした本件審決は理由不備の違法があるものであつて、その取消しを免れないから、原告の本訴請求はこれを正当として認容……する。

(柳川真佐夫 武居二郎 楠賢二)

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